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エトランゼ

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[本文より]
 そのコンクリートの塀を城壁と呼んでいた。広い広い敷地を囲って、高さもあり、壁の上には有刺鉄線が張り巡らされいかめしい。書道教室の行き帰りにいつも通る道で、城壁の作る影は湿っていた。苔が生え、蟻や蜘蛛が這っていた。蟻を目で追い、歩いていると、足元がぼこんぼこん鳴った。壁とはちがう色のコンクリートで蓋がされており暗渠だった。かつて川だったところにかけられた蓋で、ところどころ揺れる。城壁だなんて巨大に感じていたのはわたしが小さかったためだろう。
 城壁の内側は二階建ての細長い建物で、庭が広いのでぽつんとして見える。クリーム色の壁がくすんでいた。そんなに豪華な建物ではないのでかえって城だった。余計な華美は避け、質素に屹立している。ほんとうの城はこうでなくっちゃと納得し、庭の芝生がかなり禿げていてそういう滅びの気配も城だと思った。(「棕梠の姫」)


エトランゼ(étranger) 見知らぬ人、外国からやってきた人、異邦人。
子ども時代は引っ越しや転校が多く、自分はエトランゼなのだと言いきかせることによって自尊心を保とうとしていました。そのとき感じた疎外感やさみしさが、自分を読書と物語の世界に向かわせたように思います。
最近書いたものをまとめた小品集です。ネットプリントやweb企画、コピー本などの再録。

再版しました。初版とちょっと色味が変わりました。
2刷はフランス製本ではなくふつうのB6本です。

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