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人魚とオピネル(新装版)

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[本文より]
 京浜運河でうみへびを見たことがある。公園の浜辺に打ち上げられていた。干潮によりすがたをあらわす浜はねばつく泥で、散らばる貝殻の破片だけが白かった。きっとこのうみへびは、東京湾を徘徊するうちに運河に迷い込んでしまった。大井ふ頭中央海浜公園はだだっぴろく、ヒトだってしばしば迷子になる。あたしとうみへびは同じものだと思った。
 団地の子ども会でバーベキューに来たときのことで、小学生の頃だから、つまり千年前だ。姉はすでに中学生で参加せず、母も仕事で来られなかったため肩身が狭かった。
 バーベキュー場のそば、運河沿いの護岸はハゼつき磯と看板が立っており、おじさんたちが幾人も釣り糸を垂らしていた。磯のにおいと肉を焼く煙とが混ざり合い、風は湿ってまとわりつく。護岸沿いに運河をさかのぼると人工の干潟だけれど、柵があってヒトは奥まで入れない。サカナやトリやムシでなくてはならない。
 ぬかるみを端まで歩いた。サンダルの足跡が歩数ぶん、律儀に残った。あたしは証拠を残して歩いているのだと思った。何をしていても誰かに見られている気がする。
 運河はつねに波も流れもおとなしく、水面は寝ぼけている。わずかなゆらめきに灰色のからだが打ち上げられていた。にゅるっと伸びて、白いおなかが西日によって青や黄色にひかった。虹だ。しっぽはまるく絡まっていた。ずいぶんおおきいし長い。あたしの腕より長そうに見えた。こわかったのにみとれてしまった。じっと動かないが、まだ死んではいない。どうしてかそれがわかった。


学校に行かない中学生の女の子が出会った、でかい男と人魚のおじさん。
近所の火事騒ぎをきっかけに隣に越してきたでかい男・山田倫太郎略してリンダと仲良くなる。リンダはうみへびを飼っているという……?
太宰治賞二次通過作品。5万字くらい。


2017年に書いた作品です。新装版で久しぶりに再版しました。
カバー付き文庫・106ページ

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